ほっと一息、ひとりごと

日常をキリトリ✂

夏の家

10月に入り、秋の気配が濃くなってきた。特に朝晩はひんやりしていて薄手のタオルケットだけでは心許ない。ひんやりとした空気に触れると、いつもあの日を思い出す。

私がまだ小学生だった頃、祖父母と弟の4人で六甲山の家に遊びに行った。家の主はおばちゃんで、祖父母の古くからの友人らしい。 生い茂った木々の中に佇む様子はまさに「夏の家」。随分昔のことなので記憶は曖昧だが、蚊など全ての虫が大きく、水道の水が鉄臭いことに驚いた。さすが夏の家、ワイルドである。

夕食は、おばちゃんが作ってくれたカレーと私たちが買ってきたご飯。いつも無口な祖父はお酒を飲むと陽気になり、色んなことを話してくれた。楽しいご飯の後、おばちゃんは「余ったカレーは外に置いとくと美味しいのよ。」と言って、カレーの鍋を外に吊るしていた。外に吊るされたカレーってキャンプみたい!憧れのシチュエーションである。でも当時の私は心の中で、夜の間にたぬきがカレーを舐めちゃわないかしら?と本気で心配していた。

寝室は弟と2人で1部屋。まだ小さかった弟がベッドから落ちては大変!祖母は家中からクッションを集めて床に敷き詰めていた。
大人たちにおやすみなさいを言い、日課姉弟コソコソ話も済むと、弟は早々に寝てしまった。
私はというと旅のお供に持ってきた『ムーミン谷の彗星』を読んで夜ふかしと洒落込む。どんどん深まる夜。いつもは起きていない時間になった頃、ふと寝室の壁に飾ってある1枚の絵が気になり始めた。その絵は中華風の女の子が描かれていたのだが、目の感じなど妙にリアル。絵のことを考えていると、この女の子2人がヒソヒソ話しているのでは…?なんて恐ろしい想像が膨らんできた。幸い絵は弟の側にあったから、そちらに背を向けて読書を続けることにした。
ところで、私のベッドの横には窓があった。窓から月明かりが差し込んで、床に黒くて長い影を作り出す。その影は部屋の隅の大きな衣装箪笥まで伸びていた。嫌だ、やめたいと思っても怖い想像は膨らんでいくものだ。
その衣装箪笥の中には、亡くなったはずのおばちゃんの旦那さんが入っているかも。死体…?いや、あの箪笥はあの世に繋がっていて、その旦那さんが出てくるかもしれない。(ナルニア国物語のように)
そう考え出すと後ろが怖くて仕方ない。左も後ろも見れず、なんなら右側の窓も恐ろしくなってきた。私は縋るように必死でムーミンの本を読み続けた。そして明け方、本も読み終わり、なにより疲れてようやく眠りについた。
翌朝こっそり衣装箪笥を確認したところ、大人用の上着などが入っていた。想像より奥行きもなく、心の底から安堵した。カレーも無事で、朝ごはんに食べた2日目カレーは味がしみて本当に美味しかった。


夏の家を訪れたのは2回だけ。おばちゃん、今でも元気にしているのかな。元気でいてくれたら良いな。